やはり日本の物価は、世界の国々と比べて高いのであろうか。このことを検証するためには、個々の商品の価格を海外の主要国と比較する必要がある。そこで、経済企画庁が94年に作成した『物価レポート’94』の中での「小売り価格の国際比較」をみていくことにする(D参照)。
「D」小売り価格の国際比較(1994年11月)
為替レートは94年平均。1ドル=102.21円、1ポンド=156.54円、1フラン=18.41円、1マルク=62.98円。
出所:経済企画庁『物価レポート’94』1994年11月調査。
表「D」からわかることは、現行の為替レートを前提とする限り、多くの商品の日本での価格が海外での価格のそれよりもだいぶ高くなっていることがわかる。こうした個別の品目の事例から、日本の価格が海外のそれよりも高い理由として次の四つが考えられる。第一の理由は、コメのように輸入制限が行われていて、海外から安い価格の商品がまったく入らないか、入りにくいケースである。コメのように何らかの措置により輸入品の価格の動きが国内価格に波及しないものを、国家貿易品目という。コメの他に、国家が安全保障の見地から独占的に貿易を行い得るものとしてGATT(関税貿易一般協定)上も認められた品目として、小麦や武器などがあげられる。これらの品目が物価指数に占めるウエイトについては、武器が物価調査の対象となっていないこともあって、1〜2%程度となっている。このほかにも、砂糖、生糸、葉たばこなどについては価格支持制度が、ガソリン、軽油などについては価格に関する行政指導が存在している。又、牛肉、オレンジなどはこれまではGATTの承認を得ずして輸入数量を制限するいわゆる残存輸入制限品目であったが、91年からは自由化されるに至った。もっとも、国内農業保護の観点から高率の関税が適用されており、現在のところ内外価格差が十分解消するに至っていないのが実情である。こうした価格支持制度の卸売物価指数(=企業間で取引される商品の価格変動を総合的に捉える指数)に占めるウエイトは1%にも満たない水準ではあるが、石油関係の行政指導については3〜4%となっており、又牛肉、オレンジなども3〜5%の割合を占めている。以上、輸入品との価格遮断のための政府規制のウエイトの合計は卸売物価で9%弱、消費者物価で10%強に達している(1994年11月時点)。第二の理由として、ブランド品があげられる。メーカーや流通業者の戦略によって、日本の国内の価格が海外での価格よりも高く設定されているケースである。日本におけるブランド品の化粧品やバックなどの値段の高さは誰もが知っていることである。それ故、多くの人が海外旅行先でブランド品を買いあさっているわけである。第三の理由として、もろもろの規制が関わっていることがあげられる。その代表的な例として、住宅があげられる。あるNHKの番組で、同じ設計図に基づいた輸入住宅で、アメリカで1100万円で建った住宅が日本では2900万円したという事例が報告された。その費用の中身をみると、日本の材木の規格であるJAS(日本農林規格)を通すためのコストが予想以上にかかる、水道業者は指定業者でないと利用できない、水道の蛇口などの部材は認可がおりたものでないと使えないため海外の安いものは利用できないなど、規制がからんで国内の住宅が異常に高くなることが分かる。規制が国内価格をつり上げている例としてよく挙げられるのは、この他に、国内の航空運賃、高速道路などの公共料金などがある。第四の理由として、海外から輸入することができないために価格が高くなるものもある。経済学で非貿易財と呼ばれるもので、タタシーや金融などのサービス、輸入費用が高く貿易に適さない商品などである。こういった財やサービスは国内での価格が変わらなくても、円高によって為替レートで国際比較すると相対的に高い価格になってしまう。例えば、初乗り500円のタクシーは1ドル240円なら約2ドルという計算になるが、1ドル=100円なら5ドルとなってしまう。国内でみれば変わらなくても、海外からみたら高くなるわけだ。
非貿易財の中でもっとも重要なのは流通サービスである。円高の中で日本の流通サービスの費用は国際的に突出して高くなっている。せっかく安価な商品を海外から輸入しても、コストの高い日本の流通経路を通っているうち、消費者に届くまでに非常に高い価格になってしまう。以上、少し考えただけでもわかるように、日本の価格が諸外国に比べて極端に高い理由は単一ではない。例えば、トルストイの小説『アンナ・カレーニナ』の書き出しに、「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである」というくだりがある。物価問題にもこれと似た側面がある。価格が高いのはそれぞれの分野によってそれぞれ異なった理由があり、一様ではないのだ。このような個別の商品についての日本国内の価格の高さは、当然、一般物価水準にも反映されているはずである。一般物価でみて日本の物価が海外に比ベてどれだけ高いかを確認する一つの方法は、標準的な家計が生活するうえで必要な財のバスケット(組合せ)を想定して、その価格を算出することである。先ほど日本の水準が世界の主要国と比較して高いことは表の「D」でふれた通りだが、経済企画庁はさらに、生計費全体についても東京と欧米の4都市を比較した。それによると、東京の生計費は二ューヨークの1.52倍、ロンドンの1.50倍、パリの1.43倍、ベルリンの1.44倍という結果が出ている。又、日本の場合には土地や住宅費が高いのはもちろんだが(E参照)、それを除いても東京(日本)は世界と比べて物価の高い都市(国)であるといえる。
「E」住宅価格の年収に対する倍率と東京を100とした指数による土地価格・住宅面積の比較(戸建住宅)(1994年1月現在) |
序章 学問とは自発的行為である 学問とは自己満足の世界である 学問的行為者の学問的行為 学問は必ずしも社会の役に立たないのは当然 私的空間と公的空間をつなぐ方法−論文− 序章での引用文献・参考文献 第T章 何故、日本の物価は世界と比べて高いのか(経済学) (1)はじめに (2)為替レートの変化 (3)内外価格差の現実 (4)むすび 第T章での引用文献・参考文献 第U章 何故、戦争は起こるのか(国際政治学) (1)はじめに (2)戦争の歴史 (3)経済的要因からみる戦争の出現 (4)生物学的要因からみる戦争の出現 (5)何故、戦争は起きるのか (6)経済制裁で、北朝鮮を追いつめてはいけない (7)むすび 第U章での引用文献・参考文献 第V章 何故、男は女を愛し、女は男を愛するのか(大脳生理学) (1)はじめに (2)男が女を愛し、女が男を愛する理由 (3)男と女の関係を決める要素は何か (4)男と女のつりあった関係 (5)むすび 第V章での引用文献・参考文献 終章、あとがき |