はじめに
中国経済の特殊性を考える上ではじめに思い浮かぶのは”社会主義市場経済”という概念である。この概念を文字通りに解釈すれば、政治は社会主義又は全体主義で、経済は資本主義又は文字通り市場経済ということになる。一般的に政治が社会主義であるならば経済は計画経済であるし、経済が市場経済、つまり資本主義であるならば政治は自由主義である。しかし中国政府は社会主義市場経済を定義し、それに基づいて経済運営を行っている。矛盾している概念のように思われるが中国の歴史と現状を考慮すれば整合性と必然性を感じる。
本論は学部の3年間で張紀潯先生から学んだことをまとめ、大学院での研究課題を浮き彫りにすることを目的とする。先に本論の結論を列挙すれば以下の通りである。
- 中国は社会主義の発展途上国である。
- 中国は経済が政治から多大な影響を受ける。
- 中国は巨大な国土と人口を有し、地域間格差が大きく、国際市場に影響力がある。
- 中国における輸入代替工業化政策は、毛沢東指導下の自力更生であり、国有企業を中心に自立的経済が建設されたが、同時に国際競争力のない企業群も生み出した。
- 中国における輸出志向工業化政策は、トウ小平指導下の改革開放であり、巨大な人口を有し、労働力が過剰な状況に適応した労働集約的産業の発展を促進し、経済を成長局面に移行させたが、局地的な経済特区や経済技術開発区において積極的に推進されたために国内の地域間格差を拡大させた。
- 中国はW.W.ロストウの経済発展段階説における第3、第4、第5段階が国内に共存している。
- 中国は停滞のメカニズムから脱却するために投資率の上昇と人口増加率の抑制に関する政策を強力に推進しなければならない。
- 中国は労働力移動を制限した戸籍制度のために二重経済発展モデルのメカニズムが機能したとは言えないが、農村における近代的工業部門というべき郷鎮企業を生み出した。
- 郷鎮企業の前身である農業生産合作社、人民公社営農村工業及び生産隊営農村工業は、市場を農村に限定され、且つ業種も農業生産を補完するものとされた。
- 郷鎮企業は農村における近代的工業部門であり、都市における近代的工業部門を所与としていたW.A.ルイス卿の二重経済発展モデルの想定外である。
- 1984年、1989年、1995年の公式統計データから総合的に判断すると国有企業からの失業者を郷鎮企業が中心となって吸収するのは、労働生産性、ひいては経済の成長発展の観点から最善ではない。
- 1984年、1989年、1995年の公式統計データ及び本論における分析から総合的に判断すると中国における経済成長の牽引力として、華僑資本や外国資本に期待せざるをえず、改革開放の華僑資本及び外国資本に対する優遇政策は当面続けざるをえないであろう。
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