中国経済の論文について
食料問題と農家問題を中心にして
内田真人
2004年1月
途上国の経済発展は、工業化だけでなく、農業の近代化も重要です。とりわけ市場経済が未発達な段階 では、最適な資源配分を「市場メカニズム」にだけ頼ることができないからです。また途上国において食糧は「必需財」であり、「賃金財」です。食糧価格の安定は経済発展の大前提です。
副題は、T.W. シュルツ のFood Problem (食料問題)とFarm Problem (農家問題)を意識したものです。中国は経済発展のためにこれらの問題にどう対処しているのかが今後の研究課題です。
これまで参照した中国の農業経済に関する論文を下記に列挙しました。インターネットで論文が閲覧できる場合はリンクしてあります。
太字は注目している論文です。「XX仮説」は問題意識を共有する論文に対して便宜的につけた呼称です。
参考論文
石川滋(2004)「講演:中国経済研究者として(PDF173KB) 」「アジア研究 第50巻 第1号」アジア政経学会。
内田真人(2002)「グローバリゼイションについて(PDF225KB) 」中国 対外経済貿易大学国際貿易学院。→内田仮説3
石南國(2001)「第2次世界大戦後の世界人口」「城西大学大学院研究年報 第17号」城西大学大学院経済学研究科。
関満博(2001)「講義要旨:WTO加盟と中国産業の新展開」「城西大学大学院研究年報 第17号」城西大学大学院経済学研究科。
内田真人(2000)「修論:中国の食糧不足問題(PDF608KB) 」城西大学大学院経済学研究科。→内田仮説2
石川滋(1999)「物財バランス表編成を基礎とするソ連型計画経済方式の中国への適応について」城西大学大学院。 →石川仮説1
石川滋(1999)「アジアの移行経済の国内統合と国際化」「経済研究 第50号 第2号」岩波書店。
阮 蔚(1998)「洪水と干ばつの中国食糧生産に対する影響」「中国経済 No.396」日本貿易振興会。
石川滋(1998)「講演録:後発途上国の経済開発と国際化」「TEA1997年秋期特別講演会講演録」TEA会。
速水佑次郎(1998)「講演録:経済開発における共同体、市場、国家」「TEA1997年秋期特別講演会講演録」TEA会。
大森正博(1998)「報告:アジアの経済開発と環境問題」「城西大学大学院研究年報 第15号T」城西大学大学院経済学研究科。
渡辺真知子(1998)「報告:アジアの都市化と労働移動」「城西大学大学院研究年報 第15号T」城西大学大学院経済学研究科。
石南國(1998)「報告:アジアの人口問題と経済開発」「城西大学大学院研究年報 第15号T」城西大学大学院経済学研究科。
原剛(1998)「マルサスおよびマルクスの予言と19世紀英国労働者階級の人口と生活状態」「城西大学大学院研究年報 第14号」城西大学大学院経済学研究科。
内田真人(1998)「卒論:中国経済の特殊性(PDF271KB) 」城西大学経済学部。→内田仮説1
厳善平(1997)「体制転換下における中国の食糧事情」「桃山学院大学総合研究所紀要 第23巻第1号」桃山学院大学。
益田沙織(1997)「第6章 食糧問題と今後の課題」日本興業銀行調査部・産業調査部編『中国2001年の産業・経済』東洋経済新報社。
舒小明(1997)「修論:中国の農業セクターにおける郷鎮企業の一考察」大東文化大学大学院。
森田昌幸(1996)「社会主義国家崩壊の原因 」「法学研究 第69巻 第4号」慶應義塾大学法学研究会。 →森田仮説1
石川滋(1993)「中国の大きな移行期---変化の内容と進度」「青山国際政治経済論集 第28号」青山学院大学国際政治経済学会。
石川滋(1992)「中国経済の成長と変動」青山学院大学総合研究所国際政治経済研究センター。
石川滋(1992)「8.農業生産・販売・インセンティブ」「中国経済の成長と変動」青山学院大学総合研究所国際政治経済研究センター。
石川滋(1992)「第1章 緑の革命以後における新しい農業問題の登場」『アジアの農業と日本の農業』日本農業研究所。
浦上博逵(1991)「経済哲学のすすめ 」『現代のエスプリ 経済学:危機から明日へ』至文堂。 →浦上仮説1
永野善子(1991)「書評:速水佑次郎、M.A.R. キスンビン、L.S.アドリア(1990)『もう一つの農地改革パラダイムに向けて---フィリピンからの視点』Ateneo de Manila University Press」「経済研究 第42号 第4号」岩波書店。
栗林純夫(1991)「書評:南亮進(1990)『中国の経済発展---日本との比較』東洋経済新報社」「経済研究 第42号 第4号」岩波書店。
目良浩一(1991)「書評:石川滋(1990)『開発経済学の基本問題』岩波書店」「経済研究 第42号 第4号」岩波書店。
畑井義隆(1991)「講義要旨:人口問題と食糧問題」「城西大学大学院研究年報 第7号」城西大学大学院経済学研究科。
加藤寿延(1990)「南北問題の新展開と開発援助」「城西大学大学院研究年報 第6号」城西大学大学院経済学研究科。
石南國(1989)「アジアNIESの経済発展と人口要因」「城西大学大学院研究年報 第5号」城西大学大学院経済学研究科。
小川寧(1984)「修論要旨:アジア低開発地域における農業技術革新---”Green Revolution”の意義と課題(フィリピン,中部ルソンを中心として)」「城西大学大学院研究年報 創刊号」城西大学大学院経済学研究科。
石川滋(1984)「中国経済の現状と将来展望」『古河国際センター 第72回国際教養講座』朝日生命5階大会堂において。
田嶋俊雄「第3章 農業」石川滋編(1984)『中国経済の中長期展望』日中経済協会。
石川滋(1984)「第1章 中国経済の中長期展望予備的探求」『中国経済の中長期展望』日中経済協会。
山下博(1983)「やさしい経済学 リカードの成長・分配モデル(1)〜(5)」。
中兼和津次(1982)「中国農業生産構造の変化---数量的接近」「アジア経済 第23巻第8号」アジア経済研究所。 →中兼仮説1
原洋之介(1982)「書評:Shigeru ISHIKAWA(1981)Essays on Technology, Employment and Institutions in Economic Development: Comparative Asian Experience , Kinokuniya Company Ltd..」「経済研究 第31号 第4号」岩波書店。
石川滋(1980)「中国における資源配分統制」「経済研究 第31号 第4号」岩波書店。
石川滋(1976)「転換点を迎える中国の経済と社会」「世界 第369号(8月号)」時事通信社。
浦上博逵(1973)「開発途上国の経済統合への一提案---合意的国際分業論」「アジア研究 第19巻 第4号」アジア政経学会。
石川滋(1971)「中国経済を理解するカギ」「週刊 東洋経済 6月12日号」東洋経済新報社。
石川滋(1968)「過剰労働論への一反省」「経済研究 第19号 第3号」岩波書店。
石川滋(1967)「中国農業の生産・消費構造」「経済研究 第18号 第4号」岩波書店。 →石川仮説2
石川滋(1967)「穀物消費のピークについて」「経済研究 第18号 第3号」岩波書店。
大川一司(1966)「近代経済成長と構造変化」「一橋論叢 第55号 第1号」岩波書店。
石川滋(1966)「開発過程の農工間資源移転」「経済研究 第17号 第3号」岩波書店。
速水佑次郎(1963)「書評:土屋圭造(1962)『農業経済の計量分析』勁草書房」「経済研究 第14号 第3号」岩波書店。
石川滋(1963)「日本の経験は適用可能か---アジア農業発展の諸条件」「経済研究 第14号 第2号」岩波書店。
石川滋(1962)「中国で行われた社会主義の実験」「平和経済 第7号(7月号)」。
石川滋(1962)「中国における最近の農業技術変革について」「アジア経済 第3巻第1号(1月号)」アジア経済研究所。
石川滋(1962)「書評:Alexander Eckstein(1961)The National Income of Communist China , The Free Press of Glencoe.」「経済研究 第13号 第4号」岩波書店。
坂本二郎(1961)「後進国開発理論基本文献目録」「経済研究 第13号 第2号」岩波書店。
宮下忠雄(1961)「書評:石川滋(1960)『中国の資本蓄積機構』岩波書店」「経済研究 第12号 第2号」岩波書店。
石川滋(1961)「社会主義工業化における技術選択」「経済研究 第12号 第3号」岩波書店。
石川滋(1960)「開発過程における農業部門の貯蓄と市販余剰」「経済研究 第11号 第4号」岩波書店。
石川滋(1960)「第5章 社会主義工業化の過程における食糧需要」『中国の資本蓄積機構』岩波書店。 →石川仮説3
石川滋(1959)「社会主義経済における労働需給の決定機構」「経済研究 第10号 第3号」岩波書店。
梅村又次(1959)「農家の労働供給」「経済研究 第10号 第2号」岩波書店。
川野重任(1958)「「農業問題」の経済構造---労働移動制限の構造」「経済研究 第9号 第2号」岩波書店。
石川滋(1957)「中国農業合作化の生産力効果」「経済研究 第8号 第4号」岩波書店。
石川滋(1957)「エクスタインのコメントを読んで」「経済研究 第8号 第3号」岩波書店。
石川滋(1957)「中国の社会主義的蓄積における農業セクターの負担」「経済研究 第8号 第1号」岩波書店。
仮説と問題
内田仮説3 :日本のグローバリゼイションは、対外直接投資の増加によって国内投資が減少し、当面の国民所得が減少することです。 →問題7 :中国のグローバリゼイションは外資導入の増加によって国内投資が増加し、当面の国民所得が増加することなのか? それとも中国の対外直接投資が増加し、当面の国民所得が減少することなのか? グローバリゼイションの定義と開始時期はいつからか。
内田仮説2 :中国の計画経済期において農業生産の技術水準は向上していたが、それを相殺する労働意欲(インセンティブ)の低下がありました。 →問題6 :計画経済における農民の労働インセンティブ問題。例、ゲームの理論による中国農民の行動原理分析。
中兼仮説1 :中国の計画経済期において農業生産は技術効率の向上による技術進歩がありませんでした。 →問題5 :農業の生産技術の計測問題。例、技術効率の向上、要素節約、要素代替と規模の経済をそれぞれ正確に計測するのは困難です。中兼仮説1は技術効率の向上による技術進歩を推計しています。
石川仮説3 :中国の計画経済期において食糧消費は、社会主義国と発展途上国の両者の特徴を持っていました。
石川仮説2 :中国の計画経済期において農業は伝統的な生産構造をかなり残していました。
石川仮説1 :中国の計画経済期において物動的な計画経済はあまり機能していませんでした。 →問題4 :非計画経済が機能した可能性? 例、影の価格。
内田仮説1 :中国経済の特殊性は、歴史と地理を含む「初期条件」だけでなく、開発経済の理論がそのまま応用できないことにも起因しています。 →問題3 :開発経済の理論の修正問題。例、市場経済形成の理論や市場経済が未発達な段階を前提とするべきか否か。
森田仮説1 :社会主義は、一党独裁の政治体制に欠陥があり、崩壊する原因を内包しています。 →問題2 :社会主義理論欠陥説か、社会主義国建設失敗説か?
浦上仮説1 :経済学の客観性は、自然科学の客観性とは異なります。 →問題1 :経済理論の普遍性と客観性には問題が残されています。
おわりに
上記を整理すると参照した論文は、書評や要旨を含めても60本ほどで偏りがあります。
まず、研究者に偏りがあります。これまでは、指導教官の石川滋 の論文に注目してきましたが、今後は小島麗逸 と田嶋俊雄 の研究にも注目していきます。
次に学術雑誌にも偏りがあります。これまでは、一橋大学経済研究所「経済研究 」と「城西大学大学院研究年報」を主に参照しました。「城西大学大学院研究年報」は石南國研究科長の影響で「経済開発と人口」がしばしば問題にされます。また中国人留学生が多く、中国経済と「経済開発」、「人口問題」、「交通インフラ」と「自動車産業」等が修士論文のテーマになることが多いです。
今後はアジア経済研究所の「アジア経済 」や中国経済学会の「中国経済研究 」も参照します。また中国研究所の「中国研究月報 」やアジア政経学会の「アジア研究 」もできるだけ参照します。
最後に参照言語にも偏りがあります。論文はほぼ日本語のみといっていい状況です。複眼的に分析するためにも今後は中国語の論文も参照します。
参考文献
[1] 一橋大学経済研究所「経済研究 」
[2] アジア経済研究所「アジア経済 」
[3] 中国経済学会「中国経済研究 」
[4] 中国研究所「中国研究月報 」
[5] アジア政経学会「アジア研究 」
[6] 城西大学大学院経済学研究科 「城西大学大学院研究年報」SUCRA
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