気が付くと僕は取調室の中にいた……なんてことは勿論なく、聴衆に見守られながら威勢良くサイレンを鳴らすパトカーに乗せられ、若い警官に小突かれながらこの狭い部屋に押し込められたのだ。
僕の中のイメージにおいて、取調室と言うものは暗く、陰鬱な感じがするものと思っていたのだが、実際は、サンシェードの隙間から見えるワイヤ入りの窓から西陽が差し込んできていて、結構明るいのだ。いや、眩しいと言っても過言ではないだろう。
「オイ」
「名前は?」
僕は渋々と自分の名前を言った。 僕はこの場所が不愉快だった。斜め前の、少し離れたところで何かを筆記している男のペンがカツカツ鳴るのも不愉快だったし、目の前の中年男のギラついた顔。そして何より仁丹臭い息を、この密閉した空間で吐かれるのには耐えられそうになかった。
「――― 。
中年男はそう言って煙草を取り出し、百円ライターで火をつけ、天井に向かってその煙を吐いた。 ―― 五分くらい経ったであろうか。中年男は二本目のタバコに火をつけている。 もう外は暗くなっているのではないだろうか。この位置からだと外が見えなくて良く解らない。もうだいぶ前から机の上のスタンドには光が点してある。少し、いや大分眩しい。そのスタンドは僕の顔に向けられているのだ。スタンドを被疑者にむけるのは、精神的苦痛を与えるためだとかいう話をどっかで読んだような気がする。ここも、どうやら取調室らしくなってきた。 ―― 二十分くらいは経っているんじゃないだろうか。中年男は相変わらずタバコを吹かしていて、狭い部屋の中は、大分けぶったくなっている。一体いつになったら帰れるのだろうか。中年男はタバコをふかすのが仕事であるかのように黙々と煙草を吹かし、若い男は若い男で微動だにせず、ペンを握って紙と対峙している。幾ら僕が暇な人間とはいえ、くにで養ってもらっている人間達とは比べ物になるほどではない。奴等はタバコをふかすのが仕事かもしれないが、僕のような人間がそんなことをしていたら、たちまちオマンマの食い上げである。やり残してきた仕事もある。
「あの……。」
中年男は如何にも煩わしそうに上体を起こした。しかし、その仕種には待ってましたと言わんばかりの気配が見え隠れしている。 中年男はスタンドの反射光の中、薄笑いを浮かべながら言った。
「あん? 何、言ってんだお前。
なんてことだ!
「私が何をしたって言うんです!」
「なんだと? 何をしたかだと?」
「お前は自分の罪に点いて何も知らないとでも言うのか。しらばっくれるのもいい加減にしろ!
中年男は押し殺した声でそう言った。 |
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