中国の日本語学校
経営に参加する日本人
内田真人
2008年8月
はじめに
中国の日本語教育の概要については、国際交流基金の「日本語教育国別情報:中国」が詳しい。学校教育以外の教育機関数、つまり日本語学校等は2003年は159校で機関数の17%を占めていたが、2006年には325校で機関数の21%を占めるようになった。
下記は主にインターネットで検索した結果である。
- 北京平成日本語学校:北京の日本語学校。*内田真人が経営参加
- 中日青年交流中心日本大学予科:北京の日本語学校。*株式会社コスモの経営
- 北京二外留学預科日本語学院:北京の日本語学校。*黒羽さんの経営
- 大栄教育システム株式会社:北京で日本語教育事業。
- 牡丹江市富士日語学校:黒龍江省牡丹江市の日本語学校。幼稚園、小学校、中学校及び高校も併設。
- 哈尓濱濱才日本語学院:黒龍江省哈尓濱市の日本語学校。
- 黒龍江省鶏西市天立外語学院:黒龍江省鶏西市の日本語学校。
- 誠実学院:黒龍江省鶏西市の日本語学校。
- 大連教文日本語培訓学校:遼寧省大連市の日本語学校。
- 大連永陽外語信息技術学校:遼寧省大連市の日本語学校。
- チャイナ人材ステーション事務局:遼寧省大連市で日本語教育事業。
- 中国瀋陽新幹線日本語学校:遼寧省瀋陽市の日本語学校。*現代産業株式会社の経営。
- 中国瀋陽三自日本語学校:遼寧省瀋陽市の日本語学校。
- 瀋陽通用日語培訓学校:遼寧省瀋陽市の日本語学校。
- 華日外語:遼寧省瀋陽市の日本語学校。
- 沈陽市外語学会・博亜外国語進修学校:遼寧省瀋陽市の日本語学校。
- サジケ商事:遼寧省瀋陽市で日本語教育事業。
- NPO法人アジアンロード:内モンゴル自治区フフホト市で日本語教育。
- ALPS国際エンジニアセンター:山東省青島市で日本語教育事業。*株式会社アルプス技研の経営。
- 青島新亜語言専修学校:山東省青島市の日本語学校。*青島の日系企業と青島海洋大学外語学院の共同経営。
- 青島桜之華日本語学校:山東省青島市の日本語学校。
- JTI:山東省青島市で日本語教育事業。
- 青島日研経済技術諮詢有限公司:山東省青島市で日本語教育事業。
- 青島民豊外国語専修学校:山東省青島市の日本語学校。
- 青島勝美外語培訓学校:山東省青島市の日本語学校。
- NPO法人日中経技環協会:山東省済南市で日本語教育事業。
- 明晴グループ 新日本学院:山東省青島市、威海市及び遼寧省大連市に日本語学校を設置。*新日本学院の経営。
- 威海国際日本語学校:山東省威海市の日本語学校。
- 山東櫻花日本語学校:山東省済南市と山東省青州市にある日本語学校。
- 済南関西外国語培訓学校:山東省済南市の日本語学校。
- 新世界教育グループ:上海市、浙江省杭州市、広東省広州市、広東省深セン市、江蘇省無錫市、江蘇省南通市、浙江省温州市及び江蘇省常州市等に語学学校を設置。
- 上海永漢日本語学校:上海市の日本語学校。台湾系。*邱永漢さんの経営
- 上海信男教育学園:上海市の日本語学校。*久能さんが経営参加
- 上海江川日本語全寮制学校:上海市の全寮制日本語学校。
- 上海市精華外語専修学院:上海市の全寮制日本語学校。
- 上海中野日本語専修学校:上海市の日本語学校。
- 上海平成商務培訓中心:上海市の日本語学校。
- 樺k(上海興談商務咨詢有限公司):上海市で日本語教室を運営。
- 上海明日進修学校:上海市の日本語学校。
- 21日本語教育中心:上海市の日本語学校。
- 上海市昂立進修学院:上海市で日本語教室も設置。
- 上海微麦信息技術有限会社:上海市で日本語教育事業。
- ヒートウェーブ株式会社:上海市で日本語教育事業。
- 上海鵬和教育咨詢有限公司:上海市と江蘇省蘇州市で日本語教育事業。
- 株式会社水口 グローバルサポート:上海市又は大連市で日本語学校を開設予定。
- 浙江櫻花外語専修学校:浙江省杭州市の語学学校。*松浦さんの経営
- 朝日外国語培訓学校:浙江省杭州市の日本語学校。
- 緑陽国際商務学校:浙江省平湖市の日本語学校。*日本電産株式会社の経営。
- 三通信息科技有限公司:安徽省合肥市で日本語教育事業。
- 蘭州徳久益人日本語学校:甘粛省蘭州市の日本語学校。*徳久さんの経営
- 重慶富士塾養成学校:重慶市の日本語学校。
- 泉州亜太日本語専修学校:福建省泉州市の日本語学校。
- 新幹線語言培訓中心:福建省廈門市の日本語学校。
- 華夏学校国際部日本語センター:福建省福清市の日本語学校。
- 福清市英和外語培訓中心:福建省福清市の日本語学校。
- 福清市私立輝茂日本語学校:福建省福清市の日本語学校。
- 広州櫻花日本語学校:広東省広州市の日本語学校。
- 広州天河東弘語言培訓中心:広東省広州市の日本語学校。
- ジョイフル日本語学校:広東省広州市の日本語学校。*八田さんの経営
- 蒲公英日本語ランゲージスクール:広東省東莞市の日本語学校。
- 韶関現代日本語学校:広東省韶関市の日本語学校。
- 熙然日本語学校:広東省深セン市の日本語学校。
- 深セン富士日本語学校:広東省深セン市の日本語学校。
- 深セン曙の光(華強)日本語学校:広東省深セン市の日本語学校。*株式会社ファーイースト等が経営参加。
- 珠海市藍実職業培訓学校:広東省珠海市の日本語学校。
- 珠海市博芸職業学校日本部:広東省珠海市の日本語学校。
- 協和日中語言培訓中心:広東省珠海市の日本語学校。
経営参加
67校中22校に日本人の経営参加が見受けられる。分類すると下記の通りである。
- 外国資本型:株式会社コスモ、大栄教育システム株式会社、株式会社アルプス技研、日本電産株式会社、新日本学院、株式会社ファーイースト、八田さん等がある。邱永漢さんは台湾系、華僑投資の日本語学校もある。中国の日本語教育業界にも徐々に外資が参入している。中国の日本語学校の設立と運営の費用は、徐々に高くなっているが、日本に比べればまだまだ安価である。今後もこのタイプの経営参加は増加するだろう。
- 看板借用型:黒羽さんが典型的。株式会社コスモさんは、看板借用兼外国資本型だろう。現地資本にも看板借用形は多く、大学や高校に看板と施設の使用料を支払うのが一般的である。看板の信用で募集がしやすくなり、ゼロから投資するのに比べて、費用も抑えられる。
- 個人設立型:松浦さんや徳久さんが典型的。設立と運営の費用を個人負担するのは大変である。前者は浙江省杭州市、後者は甘粛省蘭州市に学校を設立しており、どちらも地方である。上海や北京に比べれば、費用が安く、手続きも簡単であったと思われる。個人設立型は、地方ならまだまだチャンスがあるだろう。
- 雇われ経営者型:雇われ校長はインターネットで見つからなかった。外国資本型をもっとよく調査すれば、見つかるだろうが、実務に携わっていない可能性もある。実質的な経営に携わる経営者としては、上海信男教育学園の久能さんや北京平成日本語学校の内田真人が比較的近い。注目すべき点は、どちらも現地資本であるにも関わらず、教師からのたたき上げで多少なりとも経営に参加していることだろう。
法人参入
日本人が経営に参加している22校中17校が法人として参加している。サンプルが少ないので、香港と修曼(天津)同文渉外職業学校も参考にする。分類すると下記の通りである。
- 日本語学校型:新日本学院と東京国際大学付属日本語学校香港分室が典型的。台湾系の永漢日本語学校も含まれるだろう。また、中等学校教育になるが、ヒューマンアカデミー日本語学校も参入している。参入目的は、中国における日本語教育の展開と日本留学希望者の募集に大別できる。
- その他教育機関型:大栄教育システム株式会社が典型的。参入目的は業務の多角化だろうか。日本の大学や専門学校が日本留学希望者の募集を目的に参入することもある。
- 人材派遣型:株式会社アルプス技研、パソナグループと株式会社コスモが典型的。同業他社との差別化で参入したのだろうか? 株式会社アルプス技研は中国のエンジニア、株式会社コスモは日本留学希望者の募集、紹介とターゲットがはっきりしている。
- 他業種型:日本電産株式会社と株式会社ファーイーストが典型的。前者は製造業、後者はIT関連である。業務上、日本語教育が必要になったようだ。一種の社内教育と言える。八田さんもこのケースになる。
個人参入
日本人が経営に参加している22校中5校が個人として参加している。サンプルが少ないので、香港も参考にする。分類すると下記の通りである。
- 日本語教師叩き上げ型:香港の鈴木さんが典型的。上海の久能さんもここに分類していいだろう。北京の内田真人は、むしろ後述のマネージメント&マーケティング型の方が適当である。
- 国際結婚型:杭州市の松浦さんが典型的。「月刊 日本語」に記事が掲載されたことがあり、大変有名な方。中国の雑誌に日本語教育の論文等を発表しており、中国の日本語教育に貢献している。一度北京でお会いしたことがある。
- 中国滞在型:蘭州市の徳久さんが典型的。敦煌に魅せられて、中国滞在を決められたそうである。日本語学校の他に日本料理屋等も経営している。学校の卒業生が常勤教師になったり、経営を手伝ってくれるのでどうにかやってこれたとおっしゃっていた。一度蘭州でお会いしたことがある。
- マネージメント&マーケティング型:北京の内田真人が典型的。マーケティングの実践に関しては、拙著「一日本語学校の視点から見る中国北京の日本語教育---提案型日本語教育の可能性」の「日系企業」を参照。民間企業である日本語学校の発展のためには、このタイプは必要不可欠になるだろう。
おわりに
2006年の国際交流基金の調査によれば、日本語教育機関数は1,544校である。このうち学校教育は1,219校で機関数の79%を占める。これら学校教育で日本人の個人が経営に参加することは、かなり難しい。
日本語教師を続けるものにとっては、経営参加への道が開かれていることは重要である。現場の問題には、経営に参加できなければ改善できないものもあるし、経営参加することで待遇の向上も期待できる。
短期的には日本人の経営参加が進展することで、日本語学校等の業界が活性化し、サービスの質が向上し、新たな市場が開拓されることを期待したい。
長期的には学校教育でも日本人の個人が経営に参加できるようになれば望外である。
参考文献
[1] 内田真人(2008)「中国の日本人日本語教師---多様化する日本人教師と課題」
[2] 内田真人(2006)「一日本語学校の視点から見る中国北京の日本語教育---提案型日本語教育の可能性」
[3] 兼松雄一郎「靴職人、中国で日本語教育---技術指導転じ学校経営」「日経ネット関西版 2007年4月4日」。
[4] 「月刊 日本語」アルク。
Copyright(C) M.U Personal Network.