変人日記−今治編− 山路博之
八月十七日(土)【VIP市民プール】
その日は朝から曇り空で、肌寒かった。
案の定、大人用プールには誰も泳いでいなかった。
せっかく金を払ったのだから、泳がずには帰れるものかと私は意気込んだ。
それでもちょっぴり不安であった。
しかし意を決して海パンにはきかえ、泳ぐことにした。
それが午前十時であった。
午後一時過ぎ、不安は悲劇に変わっていた。
大人用プールはまさに異様な雰囲気に包まれていた。
監視員十人に対し、客一人という光景であった。
その客とはもちろん私のことである。
普段からあまりモノゴトに動じないタイプであるが、さすがにこの時ばかりはあせった。
別に悪いことをしているわけでもないのだが、どうもばつの悪い状況であった。
こう感じると最悪である。
何か用事のできた振りをして帰ろうか、それとも長イスにでも寝そべって体を焼こうかなどと、いつしか水中ではそんなことばかりを考えていた。
「人が泳いでいるのをジロジロ見るんじゃね〜よ」と思って、近くの監視員を睨みつけても、「彼らもそれが仕事だからしゃあないな」と、なかばあきらめぎみになる。
そこで、なかばあきらめぎみの〈ヤケクソクロール〉をみんなに披露する。
〈ヤケクソクロールの披露〉ですっかり疲労した私は、そのことを理由に市民プールをあとにすることにした。
帰りしな出口で、受付のオネエチャンに、
「今日はVIPプールでしたねぇ」と笑顔でいわれ、
「ああ、どうも」と、照れながらその場をあとにした。
帰り道、プール場ではちょっぴりスネていた自分ではあったが、
彼女の無邪気な笑顔とその言葉を思い出すたびに、
いつしかルンルン気分になっている自分がそこにはいた。
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