香港見聞

香港の防疫対策

内田真人

2020年10月5日

はじめに

 配偶者の勤務先は香港なので、香港の防疫対策を見聞する機会があります。ここでは見聞した香港の防疫対策をご紹介します。香港と比較することで深圳の防疫対策をより深く理解できます。

動画B:香港入境で14日隔離(2020年5月21日~6月4日0時)

 

2月4日「香港が羅湖、皇崗、福田及び香港澳門港(フェリー)の口岸を一時閉鎖!」

 写真1-10と写真1-11は本日早朝に福田と皇崗にて撮影したものです。

【福田口岸のお知らせ 日本語訳】

 香港特区政府は2月3日に公告を公表し、2月4日0時をもって羅湖、皇崗、福田及び香港澳門港(フェリー)の口岸(チェックポイント)を一時閉鎖することにしました。

 香港に赴く、或いは香港を経由する旅行者は、深圳湾口岸にて(香港に)出入境してください。

 ご不便をおかけしますが、ご了承ください。

深圳市人民政府口岸事務室
2020年2月3日

補足:深圳湾口岸に関する情報は中国検索大手百度で検索しました。バルーン1が深セン湾口岸の位置です。ちなみに地図の右端には今回一時閉鎖された福田口岸があります。

写真1-10:福田口岸のお知らせ

福田口岸のお知らせ

写真1-11:皇崗口岸のお知らせ

皇崗口岸のお知らせ

写真1-12:深圳湾口岸の地図(百度)

深圳湾口岸の地図(百度)

写真1-13:深圳湾口岸の写真(百度)

深圳湾口岸の写真(百度)
 

6月13日「福田口岸の部分開放とその準備」

 6月15日(月)から福田口岸は越境学生に部分開放されます。

 写真1-141は昨日撮影したコンテナ型隔離室(医学観察施設)です。

 写真1-142と写真1-143は今朝撮影しました。写真1-142には越境学生を指す中国語「学童服務」が見られます。写真1-143には遠隔検温(自動検温)装置、或いは監視カメラのようなものが何台も設置されています。

写真1-141:福田口岸のコンテナ型隔離室(2020年6月12日)

福田口岸のコンテナ型隔離室(2020年6月12日)

写真1-142:福田口岸の「学童服務」(2020年6月13日)

福田口岸の「学童服務」(2020年6月13日)

写真1-143:福田口岸の遠隔検温(自動検温)装置?(2020年6月13日)

福田口岸の遠隔検温(自動検温)装置?(2020年6月13日)
 

6月14日「福田口岸の一時閉鎖期間も運行されている香港地下鉄」

 福田口岸は2月4日から本日まで一時閉鎖です。一時閉鎖期間も香港地下鉄(MTR)は福田口岸(香港側は落馬洲)まで地下鉄が運行されています。動画は本日午前7時に撮影したものです。

 iPhone SE2を購入したので、試し撮りも兼ねて撮影しました。

動画1-6:福田口岸の一時閉鎖期間も運行されている香港地下鉄

 

6月15日「越境学生に部分開放された福田口岸」

 動画は本日午前6時半に撮影したものです。

 午前は登校のために6時半から8時半まで2時間だけ越境学生に開放されます。ちなみに授業は半日なので、午後は14時から16時半まで2時間半です。

 午前6時20分にはすでに数百人が行列していました。学生さんはマスクをしているくらいですが、チェックポイントの職員は全身真っ白でしっかり防護しているようです。

動画1-7:越境学生に部分開放された福田口岸

 

6月16日「越境学生と「非感染証明書」」

 深圳から香港に通学する越境学生は、国際的な業務再開にとって貴重なケーススタディーです。

 越境学生が福田口岸を利用して出入境をするには「陰性証明書(非感染証明書)」が必要です。ニュース(資料231)によれば、自費でPCR検査(中国語で核酸検測)をして「陰性証明書」を取得しなければなりません。ちなみにこの「陰性証明書」の有効期限は7日以内なので、毎週再取得です。

 写真1-144と写真1-145は本日夕方に福田口岸で撮影した越境学生向けのお知らせです。「陰性証明書」原本をすぐに取り出せるように準備を呼びかけています。

写真1-144:越境学生へのお知らせ1(2020年6月16日)

越境学生へのお知らせ1

写真1-145:越境学生へのお知らせ2(2020年6月16日)

越境学生へのお知らせ2
 

6月17日「越境学生と「思いやり」」

 動画は本日午前6時18分の福田口岸です。本日も混雑しているかもしれないと思い、観察に行きましたが、いい意味で期待に反していました。

 午前6時半からなのに越境学生にだけ11号門を開放して受け入れていました。問題を放置せず改善をした福田口岸は称賛に値します。これからもぜひ問題を1つ1つ改善していってもらいたいです。

 蛇足になりますが、個人的には十数年前の深圳だったら、改善されなかったかもしれないと思います。杓子定規なお役所仕事にも利点はありますが、中国でもしばしば批判の対象になります。そのため、中国のお役所でも利用者の立場に立った「思いやり(中国語で人性化)」のある対応が徐々にされています。特に深センは経済発展に伴い、お役所でも「思いやり」のある対応ができるようなっています。

動画1-8:午前6時半前に越境学生に開放された福田口岸

 

6月18日「「非感染証明書」の有効期限」

 写真1-148と写真1-149は昨日夕方に福田口岸で撮影しました。越境学生に「陰性証明書(非感染証明書)」有効期限は7日以内で、期限切れは出境できないと強調しています。また有効期限の前日に再検査してくださいとも記載されています。

 それから、現在は中学3年生から5年生までしか越境通学が認められていません。小学4年生から中学2年生、或いは幼稚園K3から小学3年生はまだ越境通学が認められていないのです。つまり、いわゆる許可証が交付された一部の越境学生だけが「陰性証明書」が有効期限内なら越境通学できるということです。

写真1-148:「陰性証明書(非感染証明書)」有効期限は7日以内

「陰性証明書(非感染証明書)」有効期限は7日以内

写真1-149:許可証が交付された一部の越境学生だけ越境通学可(要有効な非感染証明書)

許可証が交付された一部の越境学生だけ越境通学可(要有効な非感染証明書)
 

6月19日「タクシー通学をする越境学生」

 動画1-9は一昨日午前6時13分に福田口岸附近のタクシー乗り場で撮影しました。

 越境学生がおそらくタクシーに相乗りして福田口岸まで通学しています。もちろん相乗りしていないケースもありますが、観察した限りでは相乗りの方が多かったです。福田口岸は午前6時半からですが、同一施設にある深セン地下鉄「福田口岸」の営業開始も6時半です。その為、自家用車、或いはタクシーで早めに福田口岸に到着しないと混雑のために却って中国出境(香港入境)に時間がかかってしまうのだと思います。

 それから、越境通学をさせている家庭はそもそも家計収入が相対的に多いので、タクシー通学をさせられるのでしょう。自宅が福田口岸の近くでない越境学生は、下記のいずれかで福田口岸まで来ているようです。

  1. タクシー
  2. 自家用車
  3. 深圳地下鉄

 家計にとっては支出増加ですが、タクシー業界にとってはわずかながらも需要増大です。

動画1-9:タクシー通学をする越境学生

 

6月19日「越境学生にだけ部分開放された福田口岸!」

 6月15日から福田口岸は中学3年生から5年生の越境学生にだけ部分開放されています。

 おそらくすでに福田口岸が全面開放されたと誤解した市民からの問い合わせが多いのだと思います。本日から深圳地下鉄「福田口岸駅」の改札に写真のお知らせが置かれていました。

【日本語訳】
 6月15日から月曜日から金曜日まで6時半から8時半14時から16時半まで福田口岸は越境学生に臨時で専用通路を開設しています。その他の香港、或いは香港を経由する乗客は深圳湾口岸で中国出境(香港入境)してください。深圳湾口岸は10時から20時までです。

写真1-150:越境学生にだけ部分開放された福田口岸のお知らせ

越境学生にだけ部分開放された福田口岸のお知らせ
 

8月14日「香港における強制隔離14日間(5月21日~6月4日)」

腕輪

 Wさんは5月21日に深センから深圳湾経由で香港に入境しました。入境日も14日にカウントされ、6月4日0時に強制隔離が解除されました。

 隔離期間は位置情報を当局が把握できる写真1-241のような腕輪を着用しました。腕輪は隔離終了後に自分で外して、廃棄します。

 ちなみに隔離期間にPCR検査は実施されませんでした

写真1-241:香港における隔離期間に位置情報を把握する腕輪

香港における隔離期間に位置情報を把握する腕輪

施設

 香港は政府指定の隔離施設を各自の予算で選べます。Wさんは「香港荃灣絲麗酒店」に滞在しました。1泊HKD200以下なので、香港のホテルとしてはかなり経済的です。

 7月の深圳における強制隔離の宿泊費と比べてもかなり安いです。但し、部屋の広さは深圳の方が広いです。

 それから、食費はどうしても香港の方が高く、食費も含めて考えると香港と深センの隔離費用はほぼ同じです。

写真1-242:香港における隔離施設(香港荃灣絲麗酒店)

香港における隔離施設(香港チェン湾絲麗酒店)

写真1-243:香港における隔離施設(室内)

香港における隔離施設(室内)

写真1-244:香港における14日間隔離費用概算(2020年5月21日~6月4日)

香港における14日間隔離費用概算(2020年5月21日~6月4日)

写真1-245:深圳における14日間隔離費用概算(2020年7月10日~7月23日)

深圳における14日間隔離費用概算(2020年7月10日~7月23日)

食事

 「香港 荃灣絲麗酒店」は差し入れホテルを介したデリバリーがありました。

 Wさんは友人に果物を差し入れしてもらいました。ホテルの管理はあまり徹底されておらず、友人は部屋まで果物を届けることができたそうです。

 それから、食べなれたインスタント食品やパンを持ち込みました。持ち込んだ食べ物に飽きてくると写真1-246のようなデリバリーを何回か利用したそうです。

 食費は工夫次第で節約できます。

写真1-246:香港における14日間隔離の食事

香港における14日間隔離の食事
 

8月17日「香港における2回目の強制隔離14日間(8月12日~8月26日)」

費用

 Wさんは8月12日に深圳から深圳湾経由で香港に入境しました。入境日も14日にカウントされ、8月26日0時に強制隔離が解除される見込みです。

 5月下旬は同じホテルで約HKD186/泊でしたが、現在は約HKD288/泊に値上がりしていました。隔離費用はもちろん自腹なので、家計への影響は少なくありません。

 ちなみに今のところPCR検査は実施されていないそうです。

写真1-247:香港における14日間隔離費用概算(2020年8月12日~8月26日)

香港における14日間隔離費用概算(2020年8月12日~8月26日)

警告

 Wさんは今回も香港入境後に位置情報を当局に発信する腕輪をしました。ホテルにチェックインし、初めは6階の部屋でした。

 到着後に指示通りに当局に隔離場所に到着したことを報告しました。しばらくしてホテルの都合で12階の部屋に移動しました。ホテルスタッフに当局への連絡が必要か確認したら、「不要」との回答でした。

 その後、Wさんは当局に確認せずに6階から12階に移動したことに対して警告を受けました。腕輪の位置情報はかなり正確で、高低差も把握できるようです。前回の隔離は14日間で数回しかAPPで確認されなかったそうですが、今回は毎日APPで数回確認されます。警告を受けたからか、香港で感染が拡散しているからか、両方なのかは不明です。とりあえず当局の緊張感だけは伝わってきます。

写真1-248:香港衛生局ホームページ中国語版

香港衛生局ホームページ中国語版

写真1-249:香港衛生局ホームページ英語版

香港衛生局ホームページ英語版

写真1-250:香港衛生局ホームページ中国語版ニュース公表

香港衛生局ホームページ中国語版ニュース公表

APP

 Wさんは香港入境後にAPP「居安抗疫(Stay Home Safe)」のダウンロードを確認されました。位置情報を当局に発信する腕輪は「居安抗疫」と一緒に使用することで効率的な管理が実現できるようです。

 当局が任意で「居安抗疫」確認をします。当局の確認があれば、30秒以内にスマホの「居安抗疫」で腕輪のQRコードをスキャンします。

 隔離対象者に上記の作業をさせることで対象者が腕輪の位置にいることを監視(モニタリング)する仕組みのようです。

 香港のニュースで隔離対象者が腕輪をしたまま、或いは腕輪を隔離場所に置いたまま外出して罰金が課された事例が報道されました。「居安抗疫」はこれらへの対応なのでしょう。

 iPhone版「居安抗疫」は1.0.0が5カ月前、最も古い評価は3月20日が確認できます。現在は1.0.9で短期間で8回もアップデートされています。

 ここからは推測ですが、スマホを持っていない人には腕輪だけをしてもらい、登録(携帯)電話に当局が任意で電話するのでしょう。

 電話ですと英語、北京語、広東語が理解できないとコミュニケーションに問題が発生しそうです。8月4日~17日の14日間ですと少なくなったとはいえ香港入境者は17,512人もいます。

 もし、「居安抗疫」を使用しなければ、香港入境者の監視コストだけでも大変な費用(労力)になりそうです。

 ちなみにAPPはもちろんAndroid版もiOS版もあります。

写真1-251:「Stay Home Safe」

「Stay Home Safe」

写真1-252:30秒以内にQRコードをスキャン

30秒以内にQRコードをスキャン

写真1-253:協力感謝画面

協力感謝画面

写真1-254:iPhone版「Stay Home Safe」

iPhone版「Stay Home Safe」

おわりに

 香港の防疫対策は、中国大陸側の深圳と比較すると特に入境者に対する隔離措置が徹底されていません。香港のホテルは、同一ホテルでフロアーによって隔離者と一般宿泊者を分けるような事例がありました。防疫の観点から隔離施設は、一般宿泊者の宿泊は認めずに隔離者の専用としてできる限り外部との人の出入りを最小限にするのが望ましいのは間違えありません。

 PCR検査も対照的で、香港は検査費用を無料、或いは安価にせず、PCR検査数を絞ることで発熱等の症状のある人に資源を優先的に配分する戦略のようで、深圳のように隔離者の「陰性証明書(非感染証明書)」とし積極的に使用していません。

 しかしながら、香港もPCR検査を「陰性証明書」として重視する地域に対しては、出入境を再開するためにPCR検査を「陰性証明書」とするしかありませんでした。繰り返しになりますが、越境学生は香港と中国大陸の往来を再開するための貴重なケーススタディーになっています。

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